ウォンマガ夏フェス2015

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Theme:うなじに夏をかくまって

Author:ヒロウミユウさんTwitterID

「西田さんって……その、こういうところ……」
「まぁ……初めてではないですね」
 ごまかしても仕方ないから、私は素直に答えた。
 ただ、悠奈さんは私の言葉を理解してるのか、してないのか。とにかく、部屋の中をあちこち見て回ってる。
「テレビにブルーレイにゲーム機が三つ。カラオケとスロットマシーンだっけ。ラブホテルって、何でこんなにいろいろ置いてあるの?」
「のんびりと遊ぶためじゃないですか? 私もありますよ。二人でゲームしたり、カラオケしたり。ゴロゴロできるのも利点ですよね」
「そして、ご飯もスイーツも食べれるのね」
 サイドボードに置いてあったメニューを持ってきて、悠奈さんが隣に座った……のはいいんだけど、ちょっと近い。
 別にイヤではないんだけど……たぶん、いつもの悠奈さんと違うから、かな。

   *

 八月最後の日曜日。私は職場に行く途中にある大きなターミナル駅の駅ビルで、悠奈さんと待ち合わせをしてた。悠奈さんは職場の先輩で、パンツスーツが似合うキリッとした大人の女性って感じの人で、私の指導係なんだ。
 待ち合わせっていっても、遊びに行くわけじゃなくて、半分ぐらいは仕事関係。一緒に仕事をしてる派遣社員さんの契約が終わるので、ささやかなプレゼントでもってなって、一緒に買いに行くことになったんだよね。
「まだ……来てないみたいだね」
 待ち合わせの五分前ぐらいに到着して、周りを見渡したけど、悠奈さんっぽい人はいなかった。駅ビルの一階のところが、噴水のある大きな吹き抜けになってて、待ち合わせをしてる人や、ちょっと休んでる人、親に注意されながらも走り回ってる子……あ、転んだ。
 まぁ日曜日の昼過ぎだから、むしろ数えられる程しか人がいなかったら、その方がヘンだよね。
 もしかしたら連絡があるかもしれないしって思って、スマホを握り締めながら、噴水の縁の部分に寄りかかったら。
「あれ? 西田さん。いつの間に?」
「……え?」
 隣を見たら、カワイイ感じの人が私を見てた。大学生、かな?
 ……誰だろう?
 見たことがあるようなないような……うーん、思い出せない。
「どうしたの? 西田さん」
「……え? 名前? なんでっ?」
「なんでって、後輩の名前ぐらい覚えてるわよ、西田美夏さん」
「後輩……! ええっ。も、もしかして、悠奈さんですかっ?」
「ちょっと、大きな声を出さないでよ。恥ずかしいじゃない」
「す、すみません。でも、悠奈さんだって、分からなくて……」
「えっ。なんでよ?」
「だって、服とか髪型とか、いつもと違うじゃないですか」
「休日にスーツを着るわけないじゃない。あなただってそうでしょ?」
「そうですけど……」
 限度がありますって言葉を、私はぐっと飲み込んだ。
 仕事のときは、白い無地のシャツの上に、黒かグレーのパンツスーツをピシッと着てる悠奈さんが、今日は白いふんわりしたオフショルダーのワンピース。スカート丈は膝上だから、形のいいスラッとした脚が見えるし、折り返しの襟はレースが使われてて、ふんわりと膨らんだ胸を飾ってた。
 そんなフェミニンな服に合わせた、キルティングの小さなポシェットバッグに、ストラップがキラキラしたミュール。
 あまりにいつもと違うから、見逃してたんだと思う。
「……そんなにジロジロと見ちゃって。似合わないとでも言いたいの?」
「そんなことないです! いつもとは違うからビックリですけど……。でも、どうしてですか? いつもの悠奈さんらしくないって言えば、らしくないんですけど」
「あなたもズバッと言うわね。仕事のときぐらいよ、ああいうのを着るのは」
「そうなんですか」
「仕事をするのに、カワイイ服を着る必要はないでしょ? もちろん職種にもよるだろうけど」
「でも、他の方にも言われません? 違いすぎるって」
「……職場の人で休日に会うのって、西田さんが初めてよ」
 ふっと悠奈さんが視線を外した。何となくむくれて見えるその横顔がカワイイからか、胸の奥がポカポカしてくる。いつもはピリッとした美人さんだけど、今日はツンと澄ました美人さんかな。
「そういう西田さんだって。そういうシックな色も似合うのね」
「小物類は別として、服とかバッグは黒か紺か青色ですね」
 トップスは襟ぐりとか袖のところにリボンの飾りがついてる青のカットソーで、下は黒のチュールスカート。スパンコールの飾りがワンポイントなんだ。
「ほら、もう。行くわよ」
「はい。ところで、コレにするとか……あります?」
「そうね。あの人はね」

   *

「どうします? 何か食べますか?」
「ちょっと興味あるけど、おやつの時間にしては遅いし、夕食には早すぎるし……」
「それじゃ、カラオケかゲームかして時間をつぶしますか? 時間はありますし」
「そうね。服が乾かないと帰れないものね……」
 隣に座ってる悠奈さんが、顔を伏せた。
 髪の毛がハラリとバスローブにかかる。
「仕方ないですよ。ゲリラ豪雨は悠奈さんのせいじゃないですから」
「そうだけど……」
「駅ビルを出て、他のところも見てみようって言ったのは悠奈さんかもしれませんけど、私だってもうちょっといろいろ見て回りたいなって思ってたんですから、同じです」
 ずぶ濡れになった私たちは、すぐ目の前にあったラブホテルに逃げ込んだんだ。ドライヤーで乾かせるだけ乾かして……って思ったら、乾燥機つき洗濯機があったし、浴室乾燥もできるから、あと一時間もすれば帰れるかな。雨が止んでれば、だけど。
「西田さん、ごめんね、なんか気をつかわせちゃって。ここのお金、わたしが払うから」
「そんな、いいですって」
「でも……」
「じゃあ、お願いがあるんですけど」
「うん。何でも言って」
「……名前で呼んでくれませんか?」
「名前で? えっと……美夏さん?」
「さん、はいらないですよ。ミカって呼び捨てで」
「じゃあ、美夏」
「はい。悠奈さん」
 お互いの顔を見てたんだけど、悠奈さんがプイッと顔をそむけた。
 髪の毛をかけてる右耳が、少し紅くなってる気がする。
「悠奈さん?」
「な、なんか、恥ずかしいわね……」
「イヤでしたか?」
「イヤじゃないけど、なんかムズムズするっていうか……」
 悠奈さんはチラッとこっちを見るけど、すぐに顔をそむけちゃう。
 ……なんだろう。まるで誘われてるみたいだけど……悠奈さんって、こっち側の人なの? そんな話、聞いたことないんだけどな。
 ぼんやりと悠奈さんの後姿を眺めた。
 髪の毛が流れるように首筋にかかってる。いつもはアップにしてるせいか、少し日焼けしてる気がする。デコルデとか二の腕の方が白いぐらい。
 そして。
「……チュッ」
「えッ! ちょ、ちょっとっ」
「どうかしましたか?」
「ど、どうかって。今、何を」
「何って、キスですけど」
「キ、キスですけどって、どういうことよ」
「いや、首筋を眺めてたら、したいなって思って」
「に、西田さんっ」
「……」
「ちょっと、西田さんっ」
「……名前」
「え? あぁ、美夏」
「なんですか? 悠奈さん」
「だから、なんでキスをするのかって」
「したかったからですけど……ヘタでしたか?」
「そ、そんなの、分かんないわよっ」
「なら、あらためて……」
「な、何が、あらためてなのよっ。に……美夏っ」
「まぁ、おためしってことで」
「意味がわから……わぁっ」
 抵抗してた悠奈さんがバランスを崩して、ベッドに倒れこんだ。そして、その上に覆いかぶさるように私も倒れた。
「悠奈さんって、意外と大胆なんですね」
「じ、事故に決まってるじゃないっ」
「そうかもしれませんが……ちょっと、もう治まりがつかないので」
「へ? 何が?」
「優しくしますね」
「優しく? 何が……ちょ、ちょっとッ!」

 いろいろあって、時間がギリギリになったのは……言い思い出だと思う。

   *

「おはようございます。悠奈さん」
「……おはよう。西田さん」
「あれ? 呼び方が……」
「オンとオフは別です」
「髪の毛を下ろすようにしたんですね」
「あのねぇ。誰のせいだと思ってるの!」
「だって……まぁ、いいじゃないですか。気になりませんって」
「わ、わたしが気にするのっ!」

***

こーりょさんのイラスト

Illustrator:こーりょさんTwitterID

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