ウォンマガ夏フェス2015

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Theme:ちかしく、雫に宿りえぬ

Author:さいふぁさんTwitterID

 窓から、真白な霧が流れ込んでいた。それは視界をけぶらせ、紅茶に注がれたミルクのように、世界をまろやかに見せる。
 薄絹を隔てたように曖昧な輪郭をたどり、わたしはあなたを探していた。
 書庫の中は暗い。通い慣れた場所とはいえ、手燭の明かりだけでは、ひどく心許なかった。
「――――」
 緊張に乾くくちびるであなたを呼ぶ。返事はない。けれども、呼ばずにはいられない。
 不安に押しつぶされそうになった時、やわらかな声音が霧の向こうから聞こえた。
 はっと顔を上げたわたしの瞳に、歩み寄る青年の姿が映り込む。彼は色の濃いはちみつを垂らしたような髪を揺らし、芽生えたばかりの草木にも似た、翠の瞳を細めた。
 いつもとなんら変わりのない姿に、ああ、とわたしは顔を歪める。
「フロース?」
 うつむいたわたしを見下ろし、彼は不思議そうに問うた。
 黙りこくったままでいると、彼はその場に膝をつき、わたしの頰に手を伸ばす。
「どうしたの、フロース」
 すっと両頬をなでるように両手を動かし、彼は顔をのぞき込んできた。するりと離れていく指先は幾度も人を手にかけたとは思えないほど整っていて、向けられるまなざしには冷酷さのかけらもない。微笑みは凍てついた心をとろかすようだった。
「……ミスト」
 かすれる声で彼を呼び、くちびるを噛む。
「ミスト」
 あなたは、今日のうちに死ぬ。

 いつわりの名前しか教えてくれないあなたの『死』を、わたしはもうずっと昔から『識って』いた。

***

 あなたとの再会は、十年ほど昔になる。
 北の果ての森に、堅牢なつくりの館がある。一年を通してほぼ霧におおわれるそこは、いにしえから貴人を幽閉するために使われる、この国で最も高級な牢であった。
 窓から見える景色は、常にけぶっている。明暗により昼夜の判別はつくもののそれ以外は分からず、北の果てにあるために季節のうつろいも希薄だと聞かされていた。
 それが、わたしの終の棲家になる〈霧の館〉。
 わたしは大人たちに連れられ、かつて魔のものが住まうとされた森の中に佇む館に足を踏み入れたのだった。
 大人たちの言葉によると、わたしは敗者であるらしい。長じて本から得た知識と当時の記憶をつなぎ合わせて考えたところ、わたしは神殿で神子と呼ばれた存在であり、王家との権力争いに負け、この館に幽閉されているようだった。
 神殿と王家は、建国以来ずっと争っている。法によって国を治める王家は長らく神殿に権力を奪われ、神官たちが国を動かしていた。神子は神殿の象徴であり、神の声を聞き、人々を導く存在である。
 しかし、わたしは一度として『神』というものの声を聞いたことがなかった。薄絹を揺らめかせて大勢の人の前で告げたのは、大神官と呼ばれる男が事前に書き記した文字の羅列である。それはわたしができそこないというわけではなく、全ての神子がそうであるようだった。
 神子に求められるのは人目を引く容姿とうつくしい声、それから何も考えないことである。かつて神子と呼ばれた牢の囚われ人たちは、そう書き記している。
 〈霧の館〉にはわたしの世話をする女の人と、定期的に食料や衣類などの日用品を運んでくる男の人がいたけれど、彼らがわたしと言葉を交わすことはなく、何も教えてはもらえなかった。
 館での生活は、ひどく単調だ。
 とろとろと浅い眠りから覚め、寝台の傍らに下げられた紐を引く。少し間をおいて女の人が現れ、食事と着替えを用意して去っていく。わたしは硬いパンを冷え切ったスープで流し込み、さて何をしようかと考えるのだ。部屋には娯楽となるものがなく、会話を交わす相手もいない。あてもなく館をさまよい、そうして見つけたのが書庫であり、彼であった。
 書架に立てかけられた梯子に腰を下ろし、物憂げに頁を繰るあなたを見つけた時の感情は、何と言い表したらよいのだろう。
 はじめは、驚きだった。
 わたしは彼のことをよく知っていたからだ。
 〈霧の館〉の廊下には、歴代の館の主たち――つまりは囚われ人たちの肖像画が飾られている。その中でも突き当たりの壁に飾られた青年の姿はひときわ鮮やかで、よく目を引いていた。
 次に感じたのは、恐怖である。
 わたしは彼がどのように生きたのかを識っていた。大神官によって、教え込まれていたと言ってもよい。
 この館のはじめての囚われ人。かつて誰よりも手を汚した人。英雄にして稀代の殺人鬼、後に王となる男の息子。残虐な死の使い。
 それが、あなた。
 抱えていた本が力の抜けた腕から落ち、足下に広がる。物音に気づいた彼は鋭いまなざしでわたしを捕らえ、立ちすくむ子どもの姿に毒気を抜かれたようであった。
 どうしたの、と不思議そうに問う彼は、まだ若い。わたしよりも五つ、六つほど上の少年にしか見えない。
 ミスト。後にそう呼ぶようになる彼が初めて戦場に立ったのは、十五の時だったという。
 三百年ほど前の歴史をつづった本には、戦場におけるあなたの活躍が、こと細かにつづられていた。


 しばらくの間は混乱していたわたしだけれど、〈霧の館〉ですごすうちに、分かってきたことがある。
 この森にかつて魔のものが住んでいたというのは、本当のことらしい。そのせいでこの森はところどころ『ねじくれて』いて、書庫もまた『ねじくれて』いるようであった。
 それを教えてくれたのは、誰であろう、ミストと名乗るようになった彼である。
「ねじくれているんだよ、ここは」
 かがみ込んで目線をあわせた彼は、驚きおののくわたしを見つめ、穏やかな声音で告げた。
「時がねじくれているんだ」
 君はぼくを識っているんだね、と問う彼に、かろうじて頷く。あなたが何度戦場で指揮を執り、どのように兵を動かし、どれほどの屍の山を積み上げてきたのか、わたしは識っている。
 けれども、彼はそんなわたしを見て微笑むだけであった。
 気まずい思いで目線を泳がせたわたしは、彼が先ほどまで手にしていた本の題名に気づき、碧の目を瞠る。
 それは、彼が生きていたころには存在しなかったであろうものだった。
 ……彼の、伝記。
 わたしが見ているものに気づいた彼は、ああ、と苦笑する。君の時間には、これが存在しているんだね、と呟いて。
「初めまして。未来の殺人鬼で、不審死を遂げる王子で、今はここの領主の息子です」
 わたしはその言葉に、はっとして彼を見上げた。
 ――彼は、自分の一生を知っていた。

***

 それからの日々、わたしたちの時間は、ときおり重なった。
 この森に住んでいた魔のものは、水が好きだったらしい。窓の外が深い霧におおわれる時、空からしずやかに雫が降りそそぐ時、〈霧の館〉の時はよくねじくれた。朝起きた時、昼下がり、夕方、それから夜に窓の外をながめることは、いつしかわたしの日課となっていた。
 半地下に作られた書庫はいつでも薄暗く、ひんやりとしている。わたしは分厚いショールを肩にかけ、手燭をかかげて書庫に通った。
 書庫の壁際にしつらえられた燭台に火を移していくと、セピアの世界がわたしを出迎える。
 入り交じった書庫の時は、さまざまな本を連れてきた。
 手近に積まれた本は百年以上前に作られたものであるのに新品同様だし、数年後に書かれる予定の本は、長い時が経ったかのように黄ばみ、縁がぼろぼろになっている。羊皮紙で作られた本もあれば、紙を薄く漉いて作られた、手のひらに収まるほど小さな本もあった。その全ての時が、ばらばらだ。
「僕はもうすぐ、戦場に出るんだね」
 雑多に収められた本の中で、彼がよく手に取るのは伝記だった。
「……ミスト?」
 呼び慣れた偽名で呼ぶと、彼はおいで、とわたしを手招く。
 彼の膝の上は、わたしの特等席となっていた。古びた長椅子には並んで掛けるだけの広さはあったけれど、彼はわたしを膝に乗せたがったし、わたしも彼の膝に乗りたがった。
「ねえ、フロース」
 いつのころからか、彼はわたしを花(フロース)と、古い言葉で呼ぶ。燭台に照らされるわたしの髪は赤みがかって花の色のようだと言っていたから、それが理由かもしれない。猫っ毛ですぐに絡まってしまうのに長く伸ばしているのは、彼が気に入ってくれているからだ。
「はじめて君に会った時」
 君は怖がっていたね、と。
 後ろからわたしを抱きしめて、彼はささやく。
「怖くないわ」
 わたしは呟いて、彼の腕に手のひらを重ねた。
「怖くない」
 書庫の時はねじくれている。まだ人を殺したことのない彼は、わたしが識る殺人鬼と重ならなかった。一年、二年と時が過ぎたけれど、残虐であったというあなたの、その片鱗すら見いだすことができない。
「フロース」
 わたしをきつく抱きしめて、彼は言葉を紡ぐ。苦しそうに、痛みを堪えるように。
「……戦争が、起きそうなんだ」
 彼はそう、告げた。
「戦わなきゃ、いけないんだ。父上も、僕も。剣を手に取って、たくさんの血にまみれて、人を殺さなくてはいけない」
 うん、とわたしは頷く。
 彼の生きていた時代、この地は別の国だった。後に愚王と記される国王は一人の美女に傾倒し、国は滅びかけていた。見かねた彼の父が剣を手に蜂起し、神官と手を組んで王を斃し、新たな国を作る。それが今、わたしが暮らす国だ。
 けれども、彼は。
「僕はたくさんの人を殺して、殺して、殺し尽くして。英雄になって、疎まれる。最後には王都から追い出され、生まれ育ったこの館で、二十歳を迎える前の日に、不審死を遂げる」
 いやだなあ、と彼は弱々しく呟いた。
 いやだなあ。人を殺すなんて。
 逃げてしまえば、とわたしが言うと、だめだよ、と彼は首を振る。
「逃げたら、大切な人が、死んでしまうんだから」
 それでも、あなたは人を殺さずにいられるでしょう。
 そう言いたくて、でも言ってはいけないことに気づいて、わたしは口を閉ざす。
 あなたは優しい。だからきっと、逃げることなどできないのだ。たとえ逃げたとしても、ずっとそれを心に病んで、傷つき続けるから。
「フロース」
 彼はそっと、わたしを呼んだ。
「ごめんね」
 それがしばらく会えないことに対する謝罪だと気づいたのは、彼が一向に現れない書庫に入り浸って、半年が経った後だった。


 半年の空白を経て、あなたは書庫に戻ってきた。
「久しぶり」
 そう笑う彼が何をしてきたのかを、わたしは知っている。
「おかえりなさい」
 精一杯の笑顔で出迎えたわたしを見つめて、彼はまぶしそうに目を細めた。翠の瞳がとろりと色味を濃くし、彼の思いに染まる。
 歩み寄るわたしの前に膝をつき、冷たい金属によろわれた腕を伸ばして、あなたはわたしを抱きしめた。落としきれない血の香が頬をなで、彼がたくさんの人を殺してきたことを伝える。
「おかえりなさい、ミスト」
 わたしは彼を胸に抱きしめて、ささやいた。
 戦争が始まってから、彼はあちこちの戦場で、おびただしい量の血を浴びる。半年の間に二十を超える戦いに身を投じ、その全てに勝利をもたらす。
 そうして瞬く間に民衆の支持を集め、英雄と呼ばれるようになる。
「何回、戦ったの」
 縋るようにわたしの背に腕を回す彼を見下ろして尋ねる。
「……二十と、少し。建国までに起きる戦いは四十だから、あと半分くらい、殺さなきゃ」
「……そう」
「うん」
 あなたは呟いて、わたしを抱く腕に力を込める。
 腕の温かさや優しさは鎧に阻まれて、感じることができなかった。


 それからも、あなたはたびたび、わたしの前から姿を消す。
 わたしはそのたびに本を繰り、あなたが今、どこで何をしているのかを調べた。どこに遠征に向かったのか、どんな傷を負ったのか。本には載らないことまでを調べようとして、そうして、書架の奥に、ひっそりと隠されていた紙の束を見つける。
 ミスト。
 あなたの手記を勝手に覗いてしまったわたしは、きっと、悪い子どもなのだろう。
 けれどもあなたがひそかに毒を盛られた時、暗殺されそうになり、傷を負った時。そうなることを知っていたように処置をしたわたしを見ても、彼は怒らなかった。


 数年の月日が経ち、あなたは〈霧の館〉に戻ってくる。
 この館の、囚われ人として。

***

 その日は、特に霧が深かった。
 蹄鉄の音が聞こえたと思ったら、〈霧の館〉に使者が訪れた。
 外套に、王家の紋章。腰に儀礼用の剣を吊した男は部屋から引っぱり出されたわたしに、薄っぺらい紙を投げつけた。
 そうして告げるのだ。
 おまえの処刑が決まった、と。
 突然のことに状況が理解できないわたしの前で、男は懐に手を入れた。
 かちり、と金属が動く音。
 とっさにうずくまったわたしの後ろで、長いこと世話をしてくれた女の人の頭がはじけた。血と脳漿がぶちまけられ、雨のように降りかかる。呆然と振り返るわたしの前で、彼女は首から上がなくなった身体をふらりふらりとゆらし、重たい音と共に倒れた。
 遅ればせながら、銃だ、と理解する。
 ねじくれた時のおかげで、わたしは幽閉の身でありながら、世界の動きを知っていた。
 わたしが囚われ人となった二年後に、銃、と呼ばれる武器が新たに作られた。それは鉛の弾を撃ち出すもので、剣よりも強く、弓よりも早い。
 わたしは自分の運命を知っていた。
 力をそがれた神殿は弱体化し、やがて権力のほとんどを失う。神子と呼ばれたわたしは若くして病に倒れ、死に至る。その死により神殿は信仰を失い、風化していく。
 その、はずなのに。
 歴史には表と裏がある。
 わたしの死もそうなのだろうか。
 再び撃鉄が起こされる音に、わたしは慌てて立ち上がった。
 わたしは若くして死ぬ。そのことはずっと昔から理解していたし、受け入れてもいた。
 けれどもそれが今日だというのなら、事情は異なってくる。
 身をひるがえしたわたしの後ろで、窓硝子が割れる音がした。一拍遅れて、濃密な水の匂いが鼻をかすめる。
 次第にけぶる視界を味方に、わたしは書庫へと駆けた。薄絹を隔てたように曖昧な輪郭をたどり、あなたを探す。
 書庫の中は暗い。通い慣れた場所とはいえ、手燭の明かりだけでは、ひどく心許なかった。その明かりすら今は命取りだと分かっていても、消してしまったら、たどり着けない。
 緊張に乾くくちびるであなたを呼ぶ。返事はない。けれども、呼ばずにはいられない。
 不安に押しつぶされそうになった時、やわらかな声音が霧の向こうから聞こえた。
 はっと顔を上げたわたしの瞳に、歩み寄る青年の姿が映り込む。
 いつもとなんら変わりのない姿に、ああ、とわたしは顔を歪めた。
「フロース?」
 うつむくわたしを見下ろし、彼は不思議そうに問うた。
 黙りこくったままでいると、彼はその場に膝をつき、わたしの頰に手を伸ばす。
「どうしたの、フロース」
 すっと両頬をなでるように両手を動かし、彼は顔をのぞき込んできた。するりと離れていく指先は幾度も人を手にかけたとは思えないほど整っていて、向けられるまなざしには冷酷さのかけらもない。微笑みは凍てついた心をとろかすようだ。
「……ミスト」
 かすれる声で彼を呼び、くちびるを噛む。
「ミスト」
 あなたは、今日のうちに死ぬ。
 わたしも、今日のうちに死ぬだろう。
 けれどもそれを、あなたは知らない。
「フロース」
 彼はわたしの身体に付着したものに気づき、顔をこわばらせる。
 かちり。
 不穏な音が三度聞こえたのは、その刹那だった。
 次の瞬間、わたしの身体は強い力で引っ張られた。内蔵が浮くような感覚のあとに全身を床に叩きつけられ、しびれるような痛みが身体を襲う。
「フロース」
 耳元で、彼がささやいた。とろけるような声音で、安心させるように。
「ごめんね」
 わたしの耳に、それは「さようなら」と聞こえた。
「ミスト、……」
 身体を起こしたわたしの頬を両手で挟み、彼はわたしの額にくちびるを押しつける。
 大好きだよ、とささやかれたような、気がした。
 けれどそれを確かめる間もなく、彼は離れていってしまう。
 けぶる霧の中に溶け込んだ彼の姿を、わたしは見つけることができなかった。
 かつん、かつんと足音がして、代わりのように使者が現れる。
 手こずらせるな、と吐き捨てて、男はわたしに銃口を向けた。
 その後ろに、影。
 わたしが声を上げる間もなく、男の身体から棘が生えた。狙いを外した弾が手前の床を抉り、破片が足をかすめる。
 男は信じられないものを見るように彼を見て、震える腕を持ち上げた。かちり、不穏な音が響く。
 破裂音が、聞こえた。
 二度、三度。そのたびに彼の身体が不自然に跳ねる。
 けれども彼は目を逸らすことができないわたしに微笑んで、男の心臓を貫いた剣を、力を入れてひねった。
 ごぱり、と男が口から血を吐いたあたりで、わたしの視界は暗くなる。
 ほらね、逃げなくてよかったでしょう。
 やさしい声が聞こえたような、気がした。


 目覚めた時、目の前に散らばっていたのは手記だった。
 紗がかかったようにはっきりとしない頭でそれを広い上げ、わたしはそれが自分のものであることに気づく。
 そうして日付を見た瞬間、全身の血の気がさあっと引いた。
 これは、わたしが後に書くはずであったものだ。
 未来の、手記。
 散らばるそれをかき集めていたわたしは、その先に広がる光景に膝をつく。
 死体がひとつと、骨が一体分。
 使者と、あなた。
 書庫の時はねじくれている。あなたの死は、ねじくれた時の中のものだった。
 彼の生きていた時に銃はない。だからその死は、不審死。銃弾に斃れたことなど、銃が存在していない時の人々には理解できない。
「逃げたら、大切な人が、死んでしまうんだから」
 いつかの彼の言葉が、ふいに思い出された。
「ごめんね」
 その言葉を、以前にも聞いたことがあると、思い出した。
 うぬぼれても、よいだろうか。
 ミスト。花(フロース)と呼んでくれるあなたが、わたしを大切に思ってくれたのだとしたら。あなたがわたしに待つ運命を、あらかじめ知っていたのだとしたら。
 あなたがたくさんの人を殺してまでこの館に戻ってきたのが、時のねじくれた書庫に現れる、わたしのためだとしたら。
 わたしたちは、どんなにか、すれ違っていたことだろう。
 あなたはどんなに愚かで、優しいのだろう。


 這うように死体に近づき、その下敷きとなっていた骨に手を伸ばす。
 拾い上げた頭蓋骨に、わたしはそっと、くちびるをおしつけた。

***

トマトさんのイラスト

Illustrator:トマトさんTwitterID

見たよ!
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