ウォンマガ夏フェス2016

お題:イヤリング・ブローチ | 絵:あずま | 文:狐塚あやめ

今日の報酬!


Rule of Rogue

  「きょうの探索はらくしょーだったね!」
 カティヤは運ばれてきたエールをひとくち呷るやいなや言った。
「そうねー。いつもこれぐらい簡単なら助かるのに」
 乱れた長髪を撫で付けながらアンネレがのんびりと答える。
 意気揚々とする二人に比べて、ヘルッタは変わらず落ち着いた声で言葉をつなげる。
「でもカティヤ、さいごの罠に気づいてなかったよね……」
「ちゃんとよけたでしょ! だいたい気づいてたなら教えてよぉ」
「だってカティヤちゃん、先に走っていったじゃない。止める暇もなかったわよ」
 アンネレのもっともな答えに、カティヤは不満そうに口を結ぶ。
「まぁ、入り口の謎はカティヤのおかげで解けたんだし、よくやったよ……」
「でしょお!」
 褒められると一転して上機嫌のカティヤは一笑する。

 三人は中央群に属する街を拠点に活動をしていた。
 東西南北に点在する遺跡や廃墟に赴き、隠された宝飾品や遺物の回収を生業としている。
 ここ数ヶ月はアーティファクトと呼ばれる偉人が残した遺産の収集をしていて、いまも南にある国境付近の砦跡の探索を終えたところだ。
 
 一息ついて、アンネレがきょうの成果を確認する。
「きょうのアーティファクトで二つ目ね。ルッタちゃん、もう一度見せてくれる?」
「ん……」
 アンネレに促され、ヘルッタは包みを取り出しテーブルに広げる。
 それは飾りの付いたブローチだった。青い宝石と、鳥を模したチャームが付いている。小柄なヘルッタが身につけるには大きく感じるサイズだ。
「一つ目に回収したイヤリングもそうだったけど、あたしたちのリストのアーティファクトはほとんどアクセサリーだね」
 そう言ってカティヤは自分の耳を触る。はじめに回収したアーティファクトが耳元を彩っていた。
「ギルドからもらってるリストみても、あとの三つもアクセサリーみたいよね」
 アンネレは雑多にまとめたメモを見やる。五枚のうち二枚は回収済みのイヤリングとブローチの詳細が書かれていた。
「ペンダントとカチューシャはわかるのだけど、このカンザシっていうのはなにかしらね」
「それはあたしも気になってるんだ。棒の先に飾りがついてるけどなにに使うんだろう」
 写された絵を不思議そうに眺める二人。ヘルッタは頭の中の引き出しを開けて言葉を返す。
「たしか、髪を結うときに使う装飾品だったはず……」
「髪を結う? こんな棒でどうやってまとめるのさ」
「使い方まではわからない……」
「手に入れたら試してみようよ。アン姉で」
 ふられたアンネレはやや不服そうな顔でカティヤを見る。
「私なの?」
「だってあたしじゃ短すぎるし、ルッタ姉じゃ似合わなさそうだし」
「カティヤ、ひどい……」
 ヘルッタはしゅんと目を伏せる。
「カティヤちゃん」
「あーごめんて。ルッタ姉はいつもフードしてるからつけてもわからないでしょ? だからアン姉のほうがいいかなーって」
「それはたしかにそうかも……」
 そう言って気を取り直したヘルッタは羨ましそうな眼差しをアンネレに向けた。
「私はいいのよ。二人がつけたほうがきっとかわいいわ」
 ごまかすかのように手を合わせ微笑むアンネレ。
「そういっていっつもあたしたちにやらせるじゃない。たまにはアン姉もやりなよ!」
「そうだね。姉さんもいっしょにやろう……」
 妹二人に詰め寄られたアンネレは、意外なことにあっさりということを聞いた。いつもなら、のらりくらりと逃げの一手を織り交ぜるところだがその様子はない。
「わかった、それでいいわ。けどその話はカンザシを手に入れてからにしましょう。とりあえずは残りの三つを手に入れるのがさきよ」
「りょーかい。次はどれを狙う? っと、すいませーん」
 カティヤは横切るウェイトレスを呼びとめ、三人分の料理を適当に注文した。
 三人は運ばれてきた料理をたべながら、広げた地図をながめる。
「一番近いのはペンダントがある西の地下墓所かな……」
「カチューシャとカンザシはどっちも遠いわね。北部城塞にあるカチューシャのほうが取りやすい感じはあるけれど」
「カンザシはどこにあるの?」
 言いながらエールを飲み干したカティヤがグラスをテーブルに置いた。
 アンネレが指で地図をなぞる。
「東自治区にある女神像のどれかにカンザシが備えてあるみたいだけど」
「あそこは像がたくさんあるから探し出すのはたいへん……」
 ヘルッタはうんざりといった表情になる。
 姉から思いがけない言葉がでてきて、カティヤは少し驚いた。
「ルッタ姉行ったことあるの?」
「むかし研究のために寄ったことがある。けど、調べたのは建物のほうだったから像はよく見てない……」
「私も人伝てに聞いた話しかわからないから、行くときはルッタちゃんに案内してもらいましょう」
 アンネレに頼られて、ヘルッタは照れるように口元をゆるめる。
「それじゃあ次はペンダントのある地下墓所だね。そのあと北と東のどっちに行くかはあとで決めればいいかな」
 カティヤが話をまとめると、ヘルッタも頷き同意を示した。
 しかし焦ったようにアンネレが言葉を挟む。
「さきに北に行ったほうがいいんじゃないかしら。城塞は未開の場所だから時間がかかると思うの。さきに片付けちゃって、ゆっくり女神像を調べましょう」
「時間がかかるほうをさいごにじっくり調べたほうがいいんじゃない?」
「いいえ! さきに城塞を調べるほうがいいわ! ルッタちゃんもそう思うわよね」
 アンネレはおとなしいほうの妹に、なかば強いるような言葉をなげかけた。声をあげる姉にヘルッタもうんと頷く。カティヤも気圧されるように肯定をする。
「そ、そう? まぁあたしからすればどっちでも同じだからべつにいいけど」
「じゃあ地下墓所のあとは城塞に行って、さいごに女神像の調査ね。決まり!」
 揚々とするアンネレに妹たちは顔を見合わせる。違和感にお互い首をかしげるが、とくに意を挟まず話を続けた。
「そんじゃあとはこのブローチだね。どっちがつける?」
 そう言ってカティヤが姉二人を見比べる。
 ヘルッタが口を開くより早くアンネレが続けた。
「もちろんルッタちゃんよね。私の服には似合わないもの」
「姉さんがそういうなら……」
 いつものようににこやかにするアンネレ。ヘルッタに有無を言わせず話を続けたそれをみて、カティヤがふとさきほどのやりとりを思い出した。
「ちょっとアン姉。もしかして、残りのアーティファクトも自分はつけないつもりでしょ」
「――そんなことないわよ?」
「間が空いたうえに声がうわずってるんですけどぉ」
「ほ、ほら! 私はカンザシをつけることになったじゃない」
「それもだよぉ。さいごにカンザシを回収してぜんぶ集まったら、そのままギルドに渡すよね? つけるチャンスないじゃん!」
 アンネレのしまったという顔に、カティヤはやっぱりと言葉を続ける。
「それでさきに城塞にいくーなんていったわけだ。まったく油断も隙もない。そんな理由ならさきに東自治区にいくよ!」
「カティヤちゃん!」
「そんな顔してもダメ」
「カティヤちゃん」
「ダーメ」
 すっかり上下が変わってしまっていたが、アンネレは毅然として言った。
「私たちが姉妹になると誓った日にルールを決めたわよね」
「ちょっとアン姉!」
 姉妹ルールを持ちだされてしまいカティヤは慌てる。
「ルッタちゃん、どんなルールだったかしら?」
 急にふられてヘルッタは少しびっくりした様子だったが、すぐに答える。
「どんなことも隠さずに話し合いをする……」
「そうよね。というわけで話し合いよ。さきに城塞にいったほうがいいと思うひと!」
 アンネレは大きく挙手をした。同様にヘルッタも静かに手をあげる。
「姉さんの意見のほうがいいとおもう……」
「ルッタ姉まで! アン姉にもつけさせなくていいの?」
「カティヤがつけるのもいいとおもうから……」
「そんなことばっかりいって! こんなのおーぼーだ!」
 アンネレは手を叩いていきり立つカティヤをなだめる。
「はーい。もう決まったことよ、諦めなさい。それじゃあ二人ともあしたに備えて休みましょう。はやくギルド員になれるようにしっかりと五つ集めなきゃね」
「そうだね……」
「うー、なっとくいかなぁーい」
 アンネレが会計を済ませて、ヘルッタは不満いっぱいのカティヤの手を引いて酒場をあとにした。



 星が煌めく夜の帳の下、三人は寝床にしている宿へと帰っていく。
 途中、カティヤはあくび混じりにアンネレに聞く。
「アン姉さぁ、ギルド長ってどんなだった?」
「どんなって、普通の人間だったけど」
 アンネレはなんでもないように答えた。
「ふぅん。ほら、あたしとルッタ姉はギルド長に会ってないからさ。ルッタ姉も気になるでしょ?」
「すこし……」
「そうねぇ。人間ではあったけど私たちとは違う種族みたいだったわ」
「そうなの?」
「顔立ちが違っていたし、名前も独特なものだったわ」
「名前……?」
 ヘルッタは興味が増したのか食い気味に言った。
「えぇ。名札を付けていたのだけれど、異国の文字で書かれていたから読めなかったわ。漢字っていうんだったかしら」
「でも聞いたんでしょ? なんて名前だったの?」
 アンネレは宙で指をふりながら、
「漢字で雨音って書いて『うおん』さんだって」
 それを聞いたカティヤはしばし間を空けてからつぶやいた。
「へんなの」