初めて手紙をもらった少女は嬉しくて、それを何度も読み返しました。“――ぼくとおともだちになってください。”ええ、もちろんよ。
 少女は早速手紙を書き始めました。“ええ、おともだちになりましょう。”と。
 でも、それだけではつまらない。少女は自分で書いた物語を贈ろうと思いました。
 まず浮かんだのは、かつての友達のこと。海風の歌声。星たちの笑い声。これを物語の中に入れよう、と少女は思いました。
 それから、少女の見知らぬ少年に対する想いのこと。話してみたい。できれば、会ってみたい。これも物語に入れよう、と少女は思いました。
 ペンをとって、返事を書いた紙とは別に物語を書き始めます。物語はすらすらと書けました。これを少年に贈ろう。そう思って読み返してみます。
 でも、少女はこの物語が急につまらなく思えてきました。どうしてかは分かりません。ただ、つまらないと一旦思ってしまうとだめでした。少女は紙をくしゃくしゃに丸めてごみばこに捨てました。
 それから、何度も書き直してみるものの、どうしてもうまくいきません。ごみばこは紙屑の山でいっぱいです。
 夜、少女はとぼとぼと砂浜を歩き、海の中に入りました。ゆらゆらと、浮かんでたゆたいます。空にはうみへび座が見えました。その中でも一際明るい星、アルファルドがきらりと輝きます。
「どうしてうまく書けないのかしら……」
 アルファルドはただ輝いています。もう星の声は聞こえません。でも、星たちなら、何て言うでしょうか?
『そのままの君で』
 少女ははっとなりました。これまでの自分は着飾っていて、演技をしていました。少年に贈る手紙でさえも。
 そのままの自分で、物語を紡ごう。少女はそう思い、海から上がって家に帰り、ペンをとりました。





 空には星がぺかぺかと光っている。わたしはうーんと伸びをして、ベッドから起き上がった。
「おはよう」
 窓の向こうの星に向かって声をかける。星はきらりと光って声を発した。
「おはよう。小さな小さなお寝坊さん」
 くすくす、くすくす。星たちが小さく笑う。わたしはぷうと頬を膨らませた。
「わたしは寝坊なんかしてないわ」
「でも、もう十時よ。これで寝坊してないなんていえるの?」
 空は紺色で、星がいくつも光っている。
「そ、それは……」
 わたしはもごもごと口ごもって、こほんと咳払いをした。
「と、とにかく。朝ごはんを食べるわ」
 わたしは外に出て、浜に打ち上げられた星のかけらを拾ってかごに入れた。落ちてきた流れ星が海岸に流れ着くのだ。それを海の水で洗って、持って帰って食べた。甘い味がする。昼ご飯用に調理した星を台所に置いて、外に出かけた。浜辺に体育座りして、星を見上げる。
「今日はどんな話をしてくれるの?」
 わたしは空の星に向かって話しかけた。毎日、星と話して過ごしていた。
「そうね……そろそろ、『外の世界』について話してもいいかもしれないわね」
「外の世界?」
 わたしは目を輝かせた。外の世界、すごく興味がある。
「どんな風になっているの?」
「実はこの海の向こうには、ここと同じような島がいくつも点在していて、それぞれに一人ずつ君と同じような人がいるんだ」
「へえ……」
 わたしは星と海の風から外の世界のことを聞いて、外の世界に想いを馳せた。いつか外の世界に、行ってみたいな……





「おはよう」
 いつものように星におはようの挨拶をする。でも返事がない。私は不思議に思って、もう一回今度は大きな声で呼びかけた。
「おはよーう」
 返事はない。わたしはちょっと不満になって、外に出て空を見上げた。こんなにきれいに、光っているというのに。
「どうして返事をしてくれないの? アルファルド、スピカ、レグルス?」
 寝坊してるのかしら、と私は思った。今日はわたしのほうが起きるのが早かったわ、って、あとで自慢してやりましょう。
 だけど、夜になっても、次の日が来ても、その次の日も、星たちは返事をしなかった。わたしは焦った。どうして、どうして返事をしてくれないの。わたし、このままじゃ……
 わたしは、ひとりぼっちになってしまったんだわ。
 そう思うと涙があふれた。星空を見上げて、つうっと一筋涙がこぼれた。





 毎日泣いて過ごしていた。喜びを知った分、悲しみが生まれた。幸せを知った分、不幸が生まれた。そういう風にできているのだ、この世界の仕組みは。
 わたしはひとりになってしまった。ひとりというのが、こんなにさびしいものだったなんて、知らなかった。
 涙はとても、しょっぱいね。海の水と同じなんだね。





 そんな時、届いた小瓶。“――ぼくとおともだちになってください。”そうだ、この外側にはわたしと同じような人がいる。涙が止まった。
 外の世界に目を向けよう。この海の向こう、誰かがわたしを呼んでいる。
 わたしはあなたがいると知って、少し気持ちが楽になったの。一人じゃないって分かったから。安心できる。
 たくさん手紙を書いた。それでも、この想いは伝えきれない。話してみたい。できれば、会ってみたい。想いが溢れて止まらない。ありがとう。本当に、ありがとう。
 この小説と一緒に、一葉の紙切れを入れた。

 “よろこんで”
 




「できた」
 少女はその物語を大きな瓶に詰め、海にそっと流しました。瓶はゆらゆらと流れていきます。どうか、少年のもとに届きますように。少女は祈りました。瓶は流れていき、やがて見えなくなりました。



見たよ!